『世界一の庭師の仕事術』

『世界一の庭師の仕事術』(石原和幸:WABE出版)という本を読んだ。

「路上花屋から世界ナンバーワンへ」というサブタイトルのとおり、20代で独立し、無届の路上販売から花の販売をはじめた著者が、途中で失敗し、途方もない借金を抱えつつも再起、ガーデニングに転向して英国の国際ガーデニング賞で三年連続ゴールドメダルを得るという成功ストーリーである。

実は、この手の成功物語を読むのが好きなのだ。特に中小企業の経営者が成功に至るストーリーは、自分自身のやる気が高まる感じがする。本屋で見かけるとバラバラと立ち読み、そのまま買って読んでしまうことが多い。

この本も期待に違わず、やる気にさせてくれる本だった。
特に面白かったのが、最初に花屋をはじめた当時の著者が、安売りを効果的に使った点。市場であまり値のつかない半端なものを仕入れ、花屋の常識からすれば考えられない値段で販売したあたりの話である。また、多店舗展開してからも、売れ行きが悪いときにはすべての花を10円で販売したという。

『困ったときの10円セールをした日は、確かに赤字は出るものの、店は空っぽ。在庫がすべてはけます。次の日にはまた大量に花が入ってくるわけですから、それでいいのです。毎日商売をしているのだし、もうかる日もあれば、在庫を一掃する日もある。トータルでもうかれば、いい』という一文には、非常に説得力がありました。
先日、同級生の花屋さんに聞いたところ、最近は市場でも大半が先に取引が決まってしまい、このような荒技はできなくなっているとのことだが、こうした視点については、きっとどの商売でも参考になるだろう。

そしてさらに共感できたのが、「伝説をつくれ」という著者の考え方である。
著者にとって、国際ガーデニング賞での受賞は確かに伝説であるが、それとまったく同様に、開店当時、お客さんを喜ばせるために4時間かけて三千円の花束のプレゼントを届けに行ったこと、飲み屋のお客さんからのママさんへのプレゼントとしてかすみ草で店じゅうを埋め尽くしたことなどが書かれている。
きっと伝説というのは、人から評価を得た話ではなく、自分がその後も誰かれなく自信をもって語り続けることができる話なのだろう。