意外な好立地

出張中、先日の弓削島に続いて、愛媛県今治市である。

今回の出張は、今治でとある会社の方の話を聞き、大急ぎで松山に移動、人と会ってから港に送ってもらって、高速船で呉市に移動というスケジュール。本当は、今治でタオルを買って帰ろうと目論んでいたが、どうやら時間はなさそうだ。

逆に、少し時間があるのが、今治駅での待ち時間。約束より早めに着いたので、1時間程度空いており、この文も駅構内のベーカリーカフェで書いている。

このベーカリーカフェ、失礼ながらあまり特徴は感じられないが、昼時なのでそれなりに混雑している。少し驚いたのが、コーヒーが370円という価格設定だ。駅構内といっても改札の外側なので、いまどきのベーカリーの併設カフェ、しかも地方都市にしてはかなり高い設定だと思う。

それでも、お客さんが入っている・・・理由は明らかで、今治の中心部は、駅より港よりの場所なので、駅の周辺は飲食店が少ないからだ。競合となりそうな喫茶店は見当たらず、定番のマクドナルドすらない中では価格はつけ放題、という訳だ。
もちろん、それでもコーヒーが1000円もすれば誰も飲まないだろうが、370円はそこそこ妥協できる価格、ということなのだろう。

昼の時間帯に覗いただけなので、このベーカリーカフェがしっかりと儲かっているかどうかはわからない。そこそこお客さんが入っているといっても、むちゃくちゃ混んでる訳ではなかったので、他の時間帯も含めるとそれほどではないのかもしれないが、これだけの価格設定ができるということだけでも、賑わっていない駅の隣接地は意外と面白い立地かもしれないと思ってしまった。

ゆび湯!?

 那須塩原にある塩釜温泉郷に行った・・・といっても仕事の途中に通りかかっただけ、日帰り入浴する時間すらなかったのだが。
 ちなみに、思い出せば数年前、ここに仕事で来て、そのときにも時間がなく、湯に触れることなく帰ったので、きっと自分には縁のない温泉なのだろう。

 この地域では、以前に来たときもそうだったのだが、経営不振で温泉ホテルの経営が行き詰まる →外部資本が買い取る →低価格の温泉としてガンガン営業する というサイクルがますます進んでいるようである。
 その中で、町が開湯1200年とかいう事業で、「日本一の広さの足湯」という豪華なのかどうかわからない施設を作っていたりして、地域としての方向性にはやや混迷の感が拭えない。

 これとは対照的に気になったのが、タイトルの「ゆび湯」。
 車で通りがかりに見ただけなのだが、看板の感じから、指先だけつかる小さな温泉なのだろう。本気でこれで温まるかどうかは別にして、洒落が利いてて面白い。看板も手作り感いっぱいだし。

 戻ってWEBサイトで調べてみたところ、車から見えた2箇所のみの設置らしい。あんまりおカネもかかってなさそうで、好感の持てる施設である。
 考えてみれば、これなら時間がなくてもつかることができたかも・・・

 写真は撮れなかったので、他所のサイトからの借り物です。すみません。

『600万人の女性に支持される「クックパッド」というビジネス』

 読み始めてから最後まで一気に読めてしまうのは面白い本である。よくできた小説などに出会うと、本当に時間が経つのを忘れてしまう。だが、ビジネス書や学術書となるとそれは違ってくる。むしろ本当に有益で参考になったり、刺激になったりすればするほど、途中で本を閉じて、自分自身の考えや体験と照らし合わせ、しばらくしてからまた本に戻る、ということを繰り返してしまい、一気に読むことができなくなるのだ。

 圧倒的な数の主婦に支持されている料理レシピのサイト「クックパッド」について書かれたこの本『600万人の女性に支持される「クックパッド」というビジネス』(上阪徹:角川SSC新書)は、多分に同社のPR的な要素も入っていることが感じられたが、それを差し引いても十分に刺激や気づきを与えてくれる、一気には読めない本だった。

 本に描写されている、クックパッド社の取り組みを読むと、絞込み、徹底することの凄みが感じられる。「そのことは料理を楽しくするか」という観点から、掲示板すら取り去ってしまうというサイト構成、高度な技術を用いつつ、「技術は手段に過ぎない」と言い切り、ひたすらユーザーにとっての使い勝手を追求する姿勢は、美しさまで感じてしまうほどのシンプルさである。

 個人的にもクックパッドのレシピを何度か使ったことがある。その時に感じさえしなかった当たり前の使いやすさの裏側にある同社の理念に脱帽の思いである。

 一方で本書が感じさせるのが、コミュニティーサイトの構築の難しさである。
 クックパッドのサービス自体は開始したダイヤルアップ接続の時期から順調にユーザーを集め、拡大してきたということだが、登録ユーザーが百万人になっても収益はかつかつ、という状況にあったということからも、コミュニティーを利益に変えていくことは、非常に困難な課題であることを示している。
 もちろん、これも本書に描かれている同社のその後の展開などを見ていると、当初の時期は単に広告の売り方を知らなかっただけとも理解できなくはない。それでも、コミュニティーという本来は収益と対極にあるものをビジネスとして扱う難しさを感じずにはいられない。

 ここまで読後感を書いて思ったのだが、ひょっとしたら、そうした「商売下手」なまま、巨大なコミュニティーになってしまったことが、同社の最大の成功要因かもしれない。

 もうひとつ、本書に詳しく書かれている内容が、コミュニティーに対する広告の手法である。
 世間では「クチコミマーケティング」などという言葉で、あたかもクチコミをコントロールすることで費用をかけずに売上を伸ばす手段があるやに訴える業者が数多くいるが、実際にはそれらはほぼデタラメである。それに対して、クックパッドの既にある巨大なコミュニティーに対して、手法に工夫はありつつも基本的には商品を直接ぶつけて感想を得ていく手法は、本当の意味でのクチコミマーケティングといえるものだろう。

 広告の成功例は同社にとってもPRすべき内容であるため、厳選した良い例のみが取り上げられているのかもしれないが、少なくともその発想は参考になるものだと感じた。食品分野で広告を考えている人にとっては一読の価値のある内容である。

 これは文句ではないのだが、最後にひとつ。
 個人的には長いタイトルは嫌いではないが、「13文字を超えると可読性が下がり 〜中略〜 そこでクックパッドでは、なるべく8文字から13文字で伝えるようにしています」(75頁)としている会社の本としてはややタイトルの長さが気になるところである。

「本当に○○歳!?」みたいな広告

 最近、やたらとよく見かける広告に、ちょっとキレイな感じの女性の顔のアップに「本当に○○歳!?」という感じのキャッチコピーがついているやつがある。アンチエイジングという分野の広告で、売っているのはたいていサプリメントなどの健康食品だ。

 写真を見ると確かにその年齢には見えない。十歳できかないくらい若く見える。コラーゲンとかグルコサミンとかコンドロイチンとかコエンザイムとか、いろいろ採ると、このように若くいられるということなんだろう。確かに目を惹く広告である。

 しかし考えてみると、この女性の年齢が書かれている通りだとは限らない。そう「本当に○○歳?」というのは、我々が広告の女性に本気で聞いてみたいことなのだ。
 100歩譲って年齢が本当だとしても、写真だと色々加工することも可能である。修正してなくても、300枚くらい撮影した中の「奇跡の一枚」かもしれない。

 このように疑うとキリはないが、このタイプの広告にはかなり説得力を感じてしまう。


 これは、「顔出しの効果」ではないだろうか。つまり、「わざわざ広告に顔を出して、年齢を宣言している」 →「ここまで堂々と顔を出しているのだから、まさか嘘はついてないだろう」 →「きっとこのサプリメントは効果があるに違いない」、という発想をしてしまう。半分は、無意識の発想で、特に意識しなくてもそう感じやすくなってしまうのである。
 一般の人よりは、多少は広告に免疫がある(と思っている)自分でも、少し感じるのだから、広告に慣れていない人は、よりそう思うはずである。

 この「顔出しの効果」をより早く取り入れ、ちょっとしたブームになった業界がある。

 それはビジネス書の世界。著者の顔のアップ写真が表紙に大きく飾られている。最初のうちはもともと著名な著者やキレイめの女性著者だけだったが、そんなに時間を置かずに無名の男性著者でも「とりあえず顔のアップ」みたいな表紙が急増した。これも、「顔を出しているんだから、きっといいことが書かれているに違いない」というような効果が認められたのだろう。

 そういう意味では「顔出しの効果」は、まだまだ未開拓の分野がたくさんある。
 普通の店や会社なら、躊躇してしまうと思うが、その躊躇することをあえてやることで生まれる説得力が販売につながるのである。

 ただし、ビジネス書の業界では、顔出しが増えすぎてしまい、今は逆に減っているように感じる。何事にも慣れがあり、皆が顔出しをすると、それによる説得力はなくなってしまうからだ。
 新しい分野で「顔出しの効果」を使うなら、絶対に早めにやるほうがいい。
 
 

「ゴミ屋敷」というビジネスチャンス

WEBサイトを見ていて、「ゴミ屋敷を片付けます」という広告が目に入った。

たまにテレビでやるゴミにあふれた部屋や家。あれがそんなにたくさんあるのかどうかわからないが、長年掃除ができなくてゴミが溜まっている程度なら、外からは目に付かなくてもかなりあるはず。きっとある程度以上になると、どこから手をつけていいかわからなくなり、業者に頼んでお金で解決したいという考えにもなるだろう。

ちょっと気になって、yahoo!さんで調べてみた。
「ゴミ屋敷」というキーワードはけっこうたくさんの業者が買っている(キーワード広告を出している)ほとんどが、廃棄物処理業者である。
廃棄物処理は、一般的には特定の取引先から請ける仕事なので、付加価値が小さい。つまり簡単に言うと、取引先は安定しているが儲からない。それに比べて「ゴミ屋敷」は、ニーズは小さく、安定的には仕事が発生しないかもしれないが、依頼者が切羽詰っているだけに、金額へのこだわりは小さく、儲かりやすい仕事だろう。

一般の住宅に入ることから、気をつけなくてはいけないことはたくさんあるが、新しい技術や、革新的なノウハウは必要ない仕事である。大量のゴミを積み込んで運ぶだけ。それでも、普通の家庭ではなかなか手がつけられなかったり、そもそもゴミ回収以外の手段で大量のゴミを処分する方法を知らなかったりするので、十分メリットがある。
廃棄物処理をしている会社なら、すぐにでも始められそうな事業である。

ビジネスチャンスは、色々なところ、特に人が見過ごすようなところにあるものだが、改めて気づくと、ちょっとうれしくなる。

ちなみに見た中でいちばん見やすくて説得力があったのがこの会社のサイトである。
たまたま最初に気づいた会社だった。

『世界一の庭師の仕事術』

『世界一の庭師の仕事術』(石原和幸:WABE出版)という本を読んだ。

「路上花屋から世界ナンバーワンへ」というサブタイトルのとおり、20代で独立し、無届の路上販売から花の販売をはじめた著者が、途中で失敗し、途方もない借金を抱えつつも再起、ガーデニングに転向して英国の国際ガーデニング賞で三年連続ゴールドメダルを得るという成功ストーリーである。

実は、この手の成功物語を読むのが好きなのだ。特に中小企業の経営者が成功に至るストーリーは、自分自身のやる気が高まる感じがする。本屋で見かけるとバラバラと立ち読み、そのまま買って読んでしまうことが多い。

この本も期待に違わず、やる気にさせてくれる本だった。
特に面白かったのが、最初に花屋をはじめた当時の著者が、安売りを効果的に使った点。市場であまり値のつかない半端なものを仕入れ、花屋の常識からすれば考えられない値段で販売したあたりの話である。また、多店舗展開してからも、売れ行きが悪いときにはすべての花を10円で販売したという。

『困ったときの10円セールをした日は、確かに赤字は出るものの、店は空っぽ。在庫がすべてはけます。次の日にはまた大量に花が入ってくるわけですから、それでいいのです。毎日商売をしているのだし、もうかる日もあれば、在庫を一掃する日もある。トータルでもうかれば、いい』という一文には、非常に説得力がありました。
先日、同級生の花屋さんに聞いたところ、最近は市場でも大半が先に取引が決まってしまい、このような荒技はできなくなっているとのことだが、こうした視点については、きっとどの商売でも参考になるだろう。

そしてさらに共感できたのが、「伝説をつくれ」という著者の考え方である。
著者にとって、国際ガーデニング賞での受賞は確かに伝説であるが、それとまったく同様に、開店当時、お客さんを喜ばせるために4時間かけて三千円の花束のプレゼントを届けに行ったこと、飲み屋のお客さんからのママさんへのプレゼントとしてかすみ草で店じゅうを埋め尽くしたことなどが書かれている。
きっと伝説というのは、人から評価を得た話ではなく、自分がその後も誰かれなく自信をもって語り続けることができる話なのだろう。

『「売れるスタッフ」になる!』

『「売れるスタッフ」になる!』(内藤加奈子:フォレスト出版)は、「VMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)+接客で楽しく売上アップ」というサブタイトルに釣られて書店で手に取った。実はVMDは、今、少し意識しているテーマなのである。

読んでみた結果、残念なことに、あまりVMDについて突っ込んだ記載はなく、タイトルどおり、アパレルを意識した店員の教育+やる気アップという内容だったが、明らかにこの本の対象ではない自分でも、意外に楽しく読むことができた。

最初に興味を惹いたのが、まえがきにある「この本の使用上の注意」、特にそのふたつ目に、このように書かれている。

「この本は、一部、今までの販売技術の常識を著しく逸脱する内容がふくまれています。怒り出すような方もいらっしゃるかもしれません。今まで正しいと思っていたことが、まったく役に立たないというようなショッキングな内容を含んでいますので、ご注意ください」

実際に読んでみると、そこまでの逸脱はないのだが、これまでの旧態依然とした陳列や接客をしている人にとっては、それなりに刺激を受ける内容だろう。

個人的に面白かったのが、売れないときの対応方法。
ひとつが、バックヤードを掃除すること、できているかどうかは別にしてこれは基本かもしれない。そしてもうひとつが、自分自身が服を着替えるということ。気分を変えて仕切りなおすためのこの方法は、実際に現場にいないと思いつかない発想だと思った。

文字も大きく、30分で読めた本。この本の対象であるアパレルの若い店員さんにとっては、とっつきやすい分量で、読みやすい内容である。若い店員さんに限らず、指導する立場にある人や、ちょっと行き詰まりを感じている店員さんや経営者にも勧めてみたい本である。